四年大寒/合う
ご多分にもれず、一人暮らしを始めてすぐの頃にはイケアの製品を揃えた。とりわけ気に入っていたものが、「IKEA365+」シリーズの磁器製ディナーウェアである。低価格帯に抑えられているにも関わらず、さまざまな料理を盛り付けられるラインナップで、それほど安っぽくなく耐久性もあり、収納のこともよく考えられていた。調べてみれば、三年もの期間を掛けて世界中の食卓や料理を調査した上で、都市のコンパクトな住空間で多様な食生活を送る若い世代に向け、開発されたという。極めて適切にデザインされた製品であった。
ある日、私は製品コンセプトの通りに都心の狭い集合住宅で料理していた。戸棚からそのシリーズの丸縁ボウルを取り出し、親子丼を盛り付ける。すると妙に様にならないことに気付いた。よく観察してみればこのボウルは丼にはやや小さく、低く、丸みが抑えられている。しかし丼物というと、ぽってりとした器に盛り付けられている様子を思い浮かべるだろう。そもそも、名前の通り「ボウル」なのだから無理もないのだが。
後日、無印良品に足を運んだ。その中から件のシリーズに並ぶものといえば「白磁」シリーズだ。故・森正洋氏によってデザインされた食器群である。例の丸縁ボウルに近い形の器を探したところ、思い通りにぽってりとした「丼」が見つかった。早速買い求め、再び料理して盛り付ければ、実にしっくりくる親子丼が出来上がった。
いずれのシリーズも一目見た印象は近く、仕様を並べれば似たようなスペックである。しかし、実際のかたちはそう単純ではない。そもそも「IKEA365+」シリーズは特定の食文化に向けてデザインされていない。このことが様々な問題解決を実現したわけだが、料理を引き立たせるものにはならなかった。他方の「白磁」シリーズは和食を中心としてデザインされており、このことがかたちに食器としての意味をもたらした。何にでも合うということは、何にも合わないということに他ならないのである。
北大路魯山人曰く、和食の勉強の半分は器の研究であるという。逆説的に考えれば、器のデザインの半分は食文化の研究であるのだろう。